6月2011

観世流能楽師・中所宜夫の「能楽雑記帳」

 

 

第二回 「天鼓」に見る人間ドラマ  序の段

                 「天鼓」                        2001年  緑泉会例会  梅若能楽学院 撮影・森田拾史郎

 

 

 

 

初回の文章を書いてから、ずいぶん日数が過ぎてしまいました。何しろあの文章は大震災以前に書いたものでした。第二回の内容に震災との関わりや、このような事態の中での能楽師としてのあり方などを、当然書かなければいけない、などと考えていたのですが、大きなテーマを掲げて、ただでさえ重い筆がますます重くなってしまっていました。そこで、少々専門的になりますが、少し視点を狭めたところからお話ししたいと思います。

 

作者について考えた


5月末に同門の朋輩である鈴木啓吾君が緑泉会(注1)の定例会で「天鼓(てんこ)」という曲を舞いました。彼はシテを勤める舞台の際には必ず、その曲を演じるにあたっての自分の思いを、パンフレットに綴り配るのですが、今回は「天鼓」の作者について考察していました。その結論だけ簡潔にいうと、この曲は世阿弥の次男の観世元能(もとよし)が金春禅竹の指導を受けて、兄である観世十郎元雅(もとまさ)の遺児のために創作し、禅竹に献呈したものであり、金春座の曲であったものを、観世座の長である音阿弥(おんあみ)元重が譲り受けて、観世流でも舞うようになったのではないか、というのです。
もっともこれだけでは、よほど能の勉強をしている人でも、何のことやら分からないと思います。しかし、私はこの「天鼓」観に全面的に賛成し、そこから伺われる当時の舞台人たちの心持ちを想像して、とても感動したのです。この感動の内容をお伝えするには、優れた語り手による一編の物語が必要でしょうが、残念ながら私にはその力はありません。でも、せめてもう少し分かりやすくお話して皆様にもこの感動を伝えたいと思います。

 

舞台は中国の後漢の頃


まず能「天鼓」の内容からお話ししましょう。 時は中国の後漢の頃と言いますから随分と昔のことです。王伯・王母と言う夫婦がありました。天啓により天鼓と名付ける子供を得、その後「天よりまことの鼓降り下り。打てばその声妙にして、聞く人感を催」す天才楽師となりました。これを聞きつけた帝は鼓を召し上げようとしますが、天鼓は鼓を惜しみ山中に隠れます。勅に背いて無事にすむことかなわず、天鼓は捕えられ呂水に沈められ、鼓は宮中に召されます。しかしその鼓を誰が打っても音が出ないというので、王伯を無理やり内裏に連れて来て打たせるのですが、ただ一撃、妙音は虚空に響き、父は涙にくれ、帝も哀れを催します。その後、呂水のほとりで管弦講を催し、天鼓の霊を弔っていると、少年の幽霊は水上に現れ、音楽に連れて舞い、鼓を打って戯れます。やがて夜が明ければ、全ては夢となって消えてしまいます。
前段で悲しみに沈む老人を演じたシテは、後段では童子の姿で一心に舞い狂う。一人で両方を演じ分けられる曲であると同時に、理不尽に殺された天鼓の霊が、何の恨みごともなく舞楽に興じる仕立てが、現代的思考からは違和感を持って評価される曲でもあります。
さてここで問題となるのは、王伯が登場して延々と身の不幸を嘆く場面です。その中に「伝え聞く孔子は鯉魚に別れて。思いの火を胸に焚き。白居易は子を先だてて。枕に残る薬を恨む。」と言う言葉が出てきます。一方、世阿弥の残した書き物の中に「夢跡一紙(むせきいっし)」という小文があり、そこに同じ言葉が出てくるのです。「孔子は鯉魚に別れて、思いの火を胸に焼き、白居易は子を先立てて、枕間に残る薬を恨むと云えり」と。全く同じですね。そこで「天鼓」を世阿弥作と最初は考えたのですが、それにしては趣きが違う。大体、世阿弥が自分の文章を取り入れるとすれば、こんなにそっくり取り込むはずがありません。これは、世阿弥の文章を読んだ誰かが書いたのだと考えるべきです。 ここで「夢跡一紙」がどのようなものかと言いますと、これは世阿弥70歳の時、「子ながらも類なき達人」と評し、自分の後継者と目していた長男の十郎元雅が伊勢で突然亡くなってしまい、その嘆きを近親者に宛てて記した手紙なのです。この手紙を読んだ人物が「天鼓」の作者に間違いないでしょう。

 

元能作者説に賛成


この頃、世阿弥が最も心を許していた人としては、娘婿の金春禅竹が知られていますが、その二年前に出家して舞台から離れてしまった次男の元能にも十分その資格があるでしょう。鈴木君は元能説をとるのですが、私もそれに賛成です。禅竹の作品にはもっと厳しい思想性があります。「天鼓」は世阿弥以上に彼の作品とは思えません。そして何より元能は出家です。理不尽に殺されても恨み事ひとつ言わずに、弔ってくれるのをひたすら有り難いと思っている天鼓の幽霊のあり方は、元能作者説を裏付けています。
以上、鈴木啓吾君の説を私なりにまとめてみました。簡潔にしようとするあまり少々わかりにくくなってしまったかも知れません。この元能作の能をめぐって、どんな人間ドラマがくり広げられたのか? それは次回に。
注1 重要無形文化財(能楽総合)保持者の観世流シテ方・津村禮次郎さん(小金井市桜町)が代表を務める会。中所さん、鈴木さんが所属する。

 

 

【中所さんの舞台】

◆観世九皐(きゅうこう)会六月例会「三井寺」 6月12日13時、矢来能楽堂(地下鉄東西線神楽坂駅やら井口徒歩2分)。チケットは完売。《問》03-3268-7311九皐会(http://www.kanze.com/)。

◆愛知大学国文学会 特別講演・能楽らいぶ「鶴の葬式」 6月19日15時半-16時半、愛知大学記念会館3階ホール(豊鉄渥美線愛知大学前駅下車、豊橋キャンパス内)。詩人・丸山薫の詩集「鶴の葬式」を題材にした創作能を演ずる。。《問》042-550-4295中所宜夫能の会。

◆青ジャム能楽らいぶ「平家物語~そして始まり~」 6月25日13時半-15時、吉川英治記念館(青梅線日向和田駅徒歩15分)。薩摩琵琶奏者・荒井姿水さんとのコラボレーション。50人。3000円。《問》042-550-4295中所宜夫能の会。

 

■健康で長生きするための「男の料理教室」

6月11日と7月2日-2012年2月4日の毎月(8月と1月除く)第一土曜全7回9時半-12時、ルミエール府中調理実習室(京王線府中駅北口徒歩10分)。シニアの男性対象で、素材の選び方やだしのとり方、素材の切り方など料理の基礎を学ぶ。6月は「幻の『古城梅』で梅酒を作ろう」(材料費込みの受講料3000円)、7月は手打ちうどん(同1200円)、9月は洋食(カレー、サラダ=同1500円)、10月は和食(肉ジャガ、ご飯=同1500円)、11月は秋野菜を楽しむ(同1200円)、12月はおつまみパイ(同1500円)、2月は薬膳鍋で風邪予防(同2000円)。定員は各回20人。単発受講も可。1回目に全7回分申し込むと受講料計1万1900円のところ1万円に。エプロン、ハンドタオル、三角巾(またはバンダナ)、マスク持参。府中NPO・ボランティア活動センター協働推進事業 薬膳研究会主催。

《申》各講習日の3日前までに参加者氏名と当日の連絡先を090-5552-6096、またはメールyakuzen-kenkyukai@dp03219342.lolipop.jp薬膳研究会、高屋(こうや)。

■オルガン演奏会

6月18日18時半、国際基督教大学礼拝堂(武蔵境駅南口バス、ICU下車)。椎名雄一郎さんが出演。リスト「BACHの主題による前奏曲とフーガ」、ショパン/リスト編曲「前奏曲」、リスト「『わたしたちへ、救いを願う人々へ』による幻想曲とフーガ」ほかを演奏。2000円。未就学児は入場できない。この演奏会は当初4月17日に予定されていたが、東日本大震災の影響でこの日に延期となった。

《申》メールsmc@icu.ac.jp、または 0422-33-3330同センター。

http://subsite.icu.ac.jp/smc/

 

■染色小田桐工房 いろいろな服たち

 

6月7−12日11−19時(最終日17時)ギャラリーゆりの木(国立駅南口徒歩3分)。30周年を迎えた同工房を主宰する小田桐真由美さん(国分寺市西町)が手染めの服を出品。小田桐知「旅の写真ポストカード展」を同時開催。
《問》042−573−6663同ギャラリー。
http://www10.ocn.ne.jp/~yurinoki/

■山口和男 パステル展

6月9−15日12−18時(最終日17時まで)リベストギャラリー創(吉祥寺駅中央口徒歩5分)。山口さんの7回目の個展。果物、静物、人物、風景などを描いたパステル画を出品。
《問》0422−22−6615同ギャラリー。
http://www.libestgallery.jp/index.html

■SAORI 初夏の手織り3人展

6月9−12日11−17時、ギャラリー街角(国立駅北口徒歩1分)。雨宮光子さん、井澤貴子さん、木村由美子さんがジャケットやストールなど出品。
《問》042−577−0370同ギャラリー。

■フランス刺しゅう 第7回桐花会作品展

6月9−14日11−18時(最終日16時まで)コート・ギャラリー国立(国立駅南口徒歩1分)。下田美恵子さんが代表を務める桐花会の12人が出品。
《問》042−573−8282同ギャラリー。
http://www.courtgallery-k.com/

■柴田紀子木彫展 森のつぶやきⅡ

6月9−14日11−18時(最終日16時まで)コート・ギャラリー国立(国立駅南口徒歩1分)。柴田さんが出品。
《問》042−573−8282同ギャラリー。
http://www.courtgallery-k.com/

■Art&Zacca展

6月9−14日11−18時(最終日17時まで)アートスペース88(国立駅南口徒歩3分、ファッションコージブランコ)。大森絵美子さん、シヴァさん、塩野恵子さん、せこのりこさん、藤岡美知子さん、松田シードさん、松田ナオミさん、やまもさん、山本郁子さん、横川博子さんが、手作りのオリジナル作品を出品。
《問》042−577−2011同スペース。
http://kunitachi.shop-info.com/cgi/units/index.cgi?siteid=gallery&areaid=36236&unitid=artspace

■アートグループ・モン作品展

6月14—26日10時半—17時半(初日12時から、最終日17時まで)ギャラリー門(青梅線東青梅駅北口徒歩3分、りそな銀行斜め前)。臼井セツ子さん、木下澄子さん、黒田和子さん、長谷川ウメ子さん、渡邊佳子さんが風景画や静物画、抽象画を出品。
《問》0428—23—2400同ギャラリー。

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